このノートの読み方
引くための索引であって、自己診断のための道具ではない。
二つの「ものさし」が同時に走っている
精神疾患の分類には、世界で広く使われる二つの基準があります。アメリカ精神医学会の DSM-5-TR(2022年、日本語版2023年)と、WHOの ICD-11。この二つは、特にパーソナリティ症の扱いで大きく食い違っています。DSMは今も「10タイプの類型」を残し、ICD-11は類型をやめて「重症度+特性の次元」に切り替えました。
この食い違いを知らずに用語だけ拾うと、「病名のようで病名でない」あいまいさに足を取られます。だからこのノートは、分類が揺れていること自体を情報として扱います。
用語が新しくなっている
日本精神神経学会の邦訳改訂で、いわゆる「発達障害」系の病名は 「障害」から「症」へ 置き換わりました。注意欠陥・多動性障害 → 注意欠如多動症(ADHD)、学習障害 → 限局性学習症(SLD)、広汎性発達障害の系譜 → 自閉スペクトラム症(ASD)。古い呼び方も現場には残るので、両方を併記しています。
四項目でそろえる
神経発達症の各項目は、引きやすいように 説明 / 原因 / 検査・アセスメント / 診断 の四つで統一しています。見出しをタップすると開きます。上部の検索窓に病名やキーワード(例:「読み」「衝動」「協調運動」)を入れると、その語を含む項目だけに絞り込めます。
神経発達症群
Neurodevelopmental Disorders / DSM-5-TR の最初の章。発達の早期から現れ、生涯にわたって形を変えながら続く特性群。
パーソナリティ症
Personality Disorders / いちばん「病名のような空気」をまとってしまう領域。まず、その空気がどこから来るのかを解く。
なぜ「病名のような空気」になるのか ①もともと連続体の極端を指している
パーソナリティ症は、ウイルスや腫瘍のような「ある/ない」で切れる病気ではありません。誰もが持つ性格傾向──不安の出やすさ、人との距離の取り方、衝動の抑え方──の連続体の上で、極端に振れて生活や対人関係が長く立ちゆかなくなっている状態を指します。健常と病気のあいだに自然な境目がない。だから「診断名」として切り出すと、どうしても無理が出ます。
なぜ「病名のような空気」になるのか ②「障害」という語感とスティグマ
「人格障害」という旧訳は、その人の人格そのものに欠陥がある、という響きを持ってしまいました。実際には「状態の記述」なのに、「その人=この障害」と人物ラベルにすり替わりやすい。邦訳が「人格障害」→「パーソナリティ症」へ動いたのも、この語感を薄めるためです。
なぜ「病名のような空気」になるのか ③分類自体が割れている
そして決定打がこれです。DSMとICD-11で、扱い方が真っ二つに分かれています。DSMは「10個の型」を病名のように並べ続けている。一方ICD-11は、その型分けをほぼ全廃しました。過少診断・診断の不安定さ・科学的妥当性の弱さ・スティグマといった長年の批判に応えて、「まず重症度、次に特性」を記述する方式へ切り替えたのです。境界性(ボーダーライン)だけが「パターン」という形で例外的に残りました。つまり、専門家の側でも「これは独立した病名と言い切れるのか」が決着していない。空気があいまいなのは、現実があいまいだからです。
A・DSMの見方 ── 10類型 / 3クラスター
DSM-5-TR は今も類型を維持。似た特徴で3つの「群(クラスター)」にまとめる。
B・ICD-11の見方 ── 次元(ディメンション)
類型をやめ、「どれくらい重いか」+「どんな特性か」で記述する。
まず重症度をはかる
ICD-11では、型を当てるより先に 困難の重さ を評価します。閾値に届かない「パーソナリティ困難」を入り口に、三段階で見ます。
次に「5つの特性」で色をつける
重症度に加えて、どの方向に偏っているかを以下の特性で記述します(複数併記可)。DSM の旧類型は、おおむねこの特性の組み合わせとして翻訳できます。
さらに、激しい感情の揺れ・見捨てられ不安・自己像の不安定さといった境界性の像については、「ボーダーラインパターン」という特定用語が例外的に残されました。治療研究の蓄積が大きく、ラベルを残す利点が大きいと判断されたためです。
C・合併と相性 ── どうつながるか
パーソナリティ症は単独で現れることのほうが少ない。系統と相性を押さえる。
D・傾向とトレンド
どんな偏りが語られ、議論がどこへ向かっているか。
理解チェック
特徴と分類のつながりを確かめる小テスト。選ぶと解説が開く。